山に泊まったその夜、少年Rはすこし泣いた。 小屋には灯りがない、ランタンももってこなかった。 夕方になるともう薄暗く、外には谷から霧が上がって来ていた。 懐中電灯の明かりでパズルをして遊んだが、もう7時を過ぎる頃には寝ようといって、シュラフを広げた。 風だけが吹いている。
世界で存在しているのは、ここの二人だけ、そんな重い闇が窓の向こうに迫ってくる。 寝れないのは彼も僕も同じだった。 山はこわい、人間の住む世界ではないのだと、深夜になり雨。
朝はRが先に目を覚ました、”おきておきて、雲が下にあるよ!” ふたりで小屋の外に出ると、朝日の中、雲海が広がり乗鞍、穂高、笠ヶ岳、まわりの山々が頭を出している。 黙って小屋のまわりを一周して、それから下山の準備をした。